誰もが情報発信出来るインターネットの時代。
こんな時代にけっこう厄介なのが「知識や経験の浅い人が、善意から発信する誤情報」です。
例えばYahoo!知恵袋などで「声楽 発声」と検索すると、高評価になっている微妙な回答がたくさん見つかります(もちろん、なかには素晴らしい回答もありますが)。
浅い知識や個人的体験に基づく「こんな時はこうすれば良い」といった断定的な回答は、一見するとシンプルで分かりやすく、それ故にネット視聴者からの評価も高評価になりがち。
これに対して本当に現場経験を重ねている人の回答は、「こうすれば良い場合もあるが、うまくいかないこんな場合もある。ケースバイケースで一概には言えない」
「欧米人ならその発声でよいが、日本人がそれをしたら喉を壊す可能性が少なからずある」などと、どうしても複雑で分かりにくくなる傾向があります。
でも、シンプルで分かりやすい回答が正しい回答とは限りません。
皆さんにはぜひ、正しい情報を選別する能力を磨いていって欲しいと思います。
(2024.4.30掲載)
秋学期の声楽実技試験も目前に迫ってきた1月末、希望者を募って大きな会場で試演会をしました。
試験が行われる大ホールにできるだけ近い、大きな会場で歌ってみることには、以下のような意義があります。ご参考まで。
(1)日頃レッスン室で正しい発声で歌う練習をしていても、急に大きなホールに立つと、「自分の声が届かないのではないか?」と不安になり、必要以上に頑張りすぎて、喉や身体に力を入れて良くない発声で歌唱してしまうことがあります。
このような失敗を避けるためにも、大きな会場で演奏を経験しておくことが大切です。
(2)大きなホールは残響時間が長く、子音が後方席まで伝わり難くなる傾向があります(特に速いテンポで
歌詞が沢山付いているフレーズで)。
大きな会場で歌ってみることで、後方席まで子音が明瞭に伝わっているかの確認と是正ができます。
(3)アリアの間奏中にちょっとした「動き」を入れる場合がありますね。それを大ホールでやる場合には、普段のレッスン室の時より大きく動かないと、後方の座席で見ている人(試験官)には伝わりません。「何をしているか分からない」となってしまいます。
そこで動きを大きくすると、所要時間が微妙に変わってきて、今度は伴奏と合わなくなったりします。このような調整のためにも、大きな会場で歌ってみることが大切です。
(2024.1.31掲載)
正月休みの終盤に、教員として忙しい日々を送られている門下卒業生Nさん、Sさんが訪ねていらっしゃいました。
一緒にカフェバッハのコーヒーを飲みながら、今のお仕事や東京音大の教育を振り返って思うことを伺ったり、楽しいひと時となりました。
音大受験生や音大在学生にとって少しでも参考になればと思い、お二人了解の上、以下に掲載させて頂きます。
菅: お二人は今、どんなお仕事をされているんでしたっけ?
Nさん: 東京近隣の音楽科がある高校で常勤教員になって2年目です。講師としての経験は8年。
今は音楽科と普通科のクラスを持っていまして、週5日、音楽授業、ソルフェージュの授業などをさせて頂いています。
演奏会の開催に向けた指導もさせて頂いたり。
Sさん: 保育士を養成する東京近郊の短期大学で、今年度から常勤として勤務始めました。音楽の
授業を任せて頂いています。ゼミではコーラスやアンサンブルの指導もさせて頂いています。
楽典を教えることも。保育士にはそういうスキルも求められるので。
菅: 今、東京音大の教育を振り返って、いかがでしたか?
Nさん: 私の場合、もちろん専攻は声楽でしたが、オーケストラや指揮の授業を受けたり、お琴を
学んだりと。実に幅広く色々と学ばせて頂きましたが、そういう経験が教員としての活動の幅を広げ
てくれているように思えます。
日本フィルの第九など、オーケストラ付きの合唱もすごく勉強になりました。
指揮をしっかり見ることの大切さを、体験を通じて学ぶことが出来ましたね。
Sさん: 合唱授業では、一つの物を皆で作り上げることを学ぶことができたと思います。
オペラ実習では、歌う技術以外にもたくさんのことを学んだと思います。
若者に限らず、日本人って自己開示が得意でない人が多いですよね。オペラ実習って、そういう能力
を培う貴重な場でもあると思います。
それと、合唱にしてもオペラ実習にしても、指揮者・演出家をはじめ年上の方との関わりが多いです
から、否が応でもそういう方々とのコミュニケーション能力も磨かれます。
菅: なるほど、ありがとうございます。
Nさんが仰るように、東京音大って、学生自身に学ぶ意欲があれば、実に様々な学びの機会があるんですよね。
それとSさんが仰るコミュニケーション能力ですが、じつはこれこそが社会で最も求められている能力なんですね。企業の採用面接官と話をするとよく分かります。その意味でも、皆さん東京音大でじつに貴重な経験をされていると思います。
では、最後に皆さんの新年の抱負を聞かせてくださいますか。
Nさん: 新年も生徒1人ひとりと向き合っていきたいです。自分自身の演奏活動も続けていきます。
また、自分自身に足りない部分というのも見えてきているので、その辺のさらなるスキルアップを図
っていきたいと考えています。
Sさん: 新年も忙しい毎日が続くと思いますが、教育現場での教育活動と、自身の演奏活動を、うまくバランスを取りながら両立させていければと思っています。
菅: Nさん、Sさん、今日はありがとうございました。
(2024.1.8掲載)
先週末は東京音大TCM ホールで、声楽専攻の4年生の皆さんの卒業試験(実技試験)でした。
私の門下からは実に10名ほどの大勢の方が試験に臨まれました。
高校生の頃から指導して来た方、大学生になってから、あるいは学部の途中から指導するようになった方、と様々な方がいらっしゃいましたが、
皆さんそれぞれ、楽器としての声にも磨きがかかり、音楽的にもすごく成長されて、立派な演奏をされていました。
それは4年間、歌の実技レッスンだけでなく、合唱授業に参加して日本フィルなどプロのオーケストラと共演したり、オペラ実習でプロの先生とのアンサンブルを経験したり、
練習室に仲間数名と集まって熱心に自主練したりと、様々な角度から音楽を全身で浴びるような世界に身を置いて学んで来られた結果であり、それこそが音大で学ぶことの意義であると
言っても過言ではないでしょう。
一大イベント、卒業試験が終了したとは言え、それ以外の試験はまだまだ続きます。皆さんにはくれぐれも風邪をひかないよう、引き続き自己管理
を徹底して頂きたいと願っています。
(2023.12.4掲載)
相変わらず、巧妙な詐欺メールが多いですね。
そこで、疑似体験用「詐欺メール」を作ってみました。
ここに表示されているリンクは、ググれば分かる通り正規のAmazonサポートサイトのURLです。
だからクリックしても大丈夫そうですね。
では、クリックしてみてください。
--疑似体験用「詐欺メール」-----------------
お客さまの請求情報が無効なため、お支払いが停止されています!
早急に下記から確認して、必要な対応を行ってください。
https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/
-------------------------------
どうでしょう、私のやっているDiamond Voice Studio のホームページに飛んでしまいますね。
なんでこうなるのでしょうか?
じつは、メール文はHTMLで書かれているのですが、リンク部分はこのように書かれています。
左側のhttp〜が飛び先URLで、画面上は見えません(飛び先URLまで確認できるメーラーもありますが)。
画面上に表示されているのは右側の文字列。ここにもっともらしいURLが書かれていると、つい安心してクリックしかねませんね。
こういうことがあるので、皆様もぜひ以下をお心掛けください。
・送信元が確かでないメールに表示されているリンクは、
それが正規のURLに見えてもクリックしない。
・メールに表示されているリンクにアクセスしたい場合は、
面倒でも別途、信頼出来るウェブサイトからたどってアクセスする。
(2021.9.3掲載)
最近また「新型コロナはただの風邪」という無責任な発言を耳にしますが、若い学生の皆さんには是非以下のようなことを心に留めて行動して頂きたいと思います。
新型コロナの怖さは、まず中高年の致死率の高さ。下図は内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策分科会(第4回)資料です。中高年にとっては一類感染症の黒死病ペストより危険ですね。
でもそれに加えて新型コロナには「重症病床がコロナ患者で満床になってしまう事態が起きかねない」という怖さがあります。
いくらインフルエンザの死者が新型コロナよりずっと多いと言っても、地域中核病院の重症病床が
インフルエンザ患者ばかりで満床になることはありません。
しかし新型コロナではそれが起きかねないのです。詳しい理由は臨床救急医学会等のサイトに譲りますが、一言で言えばインフルエンザの場合
一人の重症患者が重症病床を長期に占有することが少ないのに対して、新型コロナでは長期占有が普通に起きるからです。これが新型コロナという病気の特性です。
そして重症病床が新型コロナ患者で満床になると直面するのが「命の選別」。医療の世界では「トリアージ」と言います。人工呼吸器があと1台しかない、これを患者Aさんに着けるか、患者Bさんに着けるかーーそういう残酷な判断が必要な世界に突入するから怖いのです。
死者数など数字を眺めて分析するだけで、実際の医療現場を見ていない専門家には「新型コロナは
ただの風邪」に思えるのかも知れません。
(2020.9.2掲載)
短かった夏期休暇も終わり、春学期が再開されました。そして9月24日からは秋学期。
中目黒・代官山キャンパスでの対面レッスンが半年振りに再開されます。
振り返ると、4月末から実施してきたオンラインレッスンは450回を超えていました(受験生向けも含む)。それ以外にオンラインでの学内会議も。
そこでオンラインでのレッスンや会議を重ねてきて困ったこと、良かったことなどを自分なりに振り返ってみました。
■困ったこと、課題と感じたこと
・通信が急に遅くなることがある:
通信が遅いと感じた時には映像の送受信を止めて音声だけにして負荷を減らすとか、電話通話でレッスンをするとか、YouTube経由とか色々と試行しましたが、
「日時を変えて仕切り直しする」というのがシンプルで生徒さん的にも一番良かったようです。
・オンラインツール(Zoom,WebEX,・・)の音声や映像発信のアイコンが勘違い易い:
ミュートというアイコンが「今がミュート状態であることを表している」のか、「このアイコンをクリックするとミュート状態に遷移するという機能を表している」のか分かりづらく、
勘違いし易いですね。「ミュート解除」といった二重否定の表現も分かりにくい原因かも。オンラインツールによって仕様が異なるという悩ましい問題も。
急に始まるオンライン会議などで「今間違って映像発信してしまうと絶対に困る!」という時はWebカメラのレンズをバンドエイドで覆っておくと安心ですね。
・椅子は非常に大切:
レッスンに加え学内会議などもオンラインで実施するようになり、長時間座っていることが多くなりました。時々意識して身体を動かすことも必要ですが、
椅子が非常に大切と感じるようになり、身体の負担が少ない椅子に変えました。椅子によっては必ずしも長時間ワークに適していませんので。
■良かったこと
・フル伴奏で歌えるに越したことはないのですが、オンラインレッスンにも予想外のメリットがありました。タイムラグがあるので伴奏をフルには弾かず、
前奏、間奏だけ弾くことが多くなったのですが、生徒さんにとっては伴奏なしで音程を正確に取る訓練になり、
またこちらとしてもより細かく発音やテクニックをチェックすることができたように思います。
(2020.9.2掲載)
これからコンクールに挑戦される若い皆さんに向けて、参考になりそうなことをまとめてみましいた。長くなりますので、2回に分けて掲載いたします。
1.コンクールを受ける目的を明確にしておきましょう。
そもそも貴方は何のためにコンクールを受けるのでしょうか?
・コンクールを目標とすることで、演奏技術の研鑽していくことができるからでしょうか?
・「審査される」という厳しい立場で演奏する経験を重ねることが、本番慣れに繋がるからでしょうか?
・大きなコンクールで結果を出すことは自らのキャリアアップに繋がると考えるからでしょうか?
いかがでしょうか?
コンクールに限らずどんなことに取り組む場合にも、貴方の目的をはっきりと意識しておくことが大切です。
2.スケジュール的に無理のない計画を、早く立てることが大切です。
どんなに実力があっても必ず結果に繋がるものではありません。コンクールとはそういうものです。
であるからこそ、計画的に受けてでいくことが大切です。
4月からの新年度にどのコンクールにチャレンジするかは、新年のこの時期にはおおよそ決めるべきです。4月になってからではちょっと遅いです。
挑戦するコンクールを決めるにあたっては、1次予選、2次予選(あれば)、本選のスケジュールだけでなく、幸いにも入選、入賞した場合の表彰式の日程を考慮しておくことが必要です。
コンクールによっては受賞記念コンサートへの出演などが求められる場合もあります。
貴方が学生・大学院生であれば、これらの日程が学内試験ほか必須行事とぶつからないかどうか確認しておくことも必要です。
例えぶつかっていなくても、過密スケジュールを縫って、疲労が溜まった身体でのコンクール挑戦では声に張りがなく、点数が伸びないことが多いです。
3.選曲について
選曲の基準としては、
・自分に合った(自分の持ち味が生かせる)曲を選ぶ
ということもありますが、
・点数が伸びる曲を選ぶこと
も大切です。
過去の入賞者がどのような曲を演奏したかを調べることも参考になります。
ただし高校生や大学生の間は、(人にもよりますが)声がまだ成熟途中のこともあり、身の丈に合わない大曲、難曲を選ぶことは声を痛めてしまうなど、失敗に繋がりやすいので、必ず師事している先生のご意見を伺いながら慎重に決めるべきです。
新年度に複数のコンクールを受ける場合、それらのコンクールで共通に使える曲があると練習も効率的なので、そういうことも意識して選曲することをお薦めします。
また演奏の制限時間ですが、コンクールによっては「ステージにあがって挨拶をするまでの時間」まで含めている場合もあります。制限時間を超えるとそこで打ち切られ、聞かせどころが演奏できなくなることもありますから注意が必要です。
以上のようなことも含めて、少しでも疑義がある時は、しっかり確認することが大切です。なお確認
先は貴方の先生ではなく、そのコンクールの事務局です。
選曲に関してはほかにも色々とお話ししたいことがありますので、近いうちにまた書かせていただきます。
もう9月半ばですね。
音大声楽科の受験生はどんなことに気をつけて受験までの残り期間を過ごせばいいのでしょう?
特に普通高校(音高以外)から音大受験を目指していらっしゃる方は、音大受験に関する情報量
が少なくて困っているかと思います。
そこで、普通高校で音楽を指導されているDiamond Voice Studioの倉藤先生に、この時期の注意事項をお話しして頂きました。
菅)二学期になると学内に受験のムードが高まって来ますよね。
倉藤)授業が復活すると一般教科などの勉強に時間を割かれ、時間がどうしても足りなくなります。
音楽高校であれば、ソルフェージュや楽典など高校の授業のカリキュラム内で勉強できるのですが、普通高校ではこれらを授業外に取り組まないといけません。
そこで、10分休みや昼休み(大抵45分)の時間にできることを探すとのもよいことだと思います。
例えば楽典の問題をやってみるとか、調判定や音程など。1分野でよいです。
これは非常に有効で、限られた時間で問題を解く練習にもなります。
菅)何曜日の何時からは必ず楽典の勉強をする、と決めてしまうのも良いやり方ですね。ところで昼休みなどに練習ができる環境って、普通高校でもあるものでしょうか?
倉藤)音楽高校では昼休みなどに練習室でピアノの練習をできたりしますが、普通高校では音楽室を借りるしかありません。
私の場合、音楽室を受験生やピアノを弾きたい生徒に開放していますが、先生によっては音楽室のピアノは触らせないとか、グランドはだめだがアップライトならOKなど、先生の考え方によって練習できる環境も変わります。事前に音楽科教員に相談してみることも必要かと思います。
菅)受験に向けて、人前で演奏することにも慣れておくことが必要ですけど、普通高校の場合は特にそういう機会って少ないんじゃないかと。
倉藤)おっしゃる通りです。人前で演奏すると言っても普通高校にいたら決して簡単ではありません。私の場合、受験生には必ず、試験の雰囲気に慣れるための練習をさせます。
他教科の先生でも音楽の好きな先生や分かる先生は結構いらっしゃいますから、そういう先生方に試験官のように座ってもらい演奏する練習です。試験室への入室から、演奏までの一連の流れで練習すると結構戸惑う生徒が多いです。とてもいい練習です。
様々なピアノで練習することも必要ですね。
練習する環境にもよりますが、私が勤務している高校にはグランドピアノ一台とアップライトが二台あります。受験生にはこれらを全部弾かせます。アップライトで試験することはないと思いますが、当日演奏するピアノのタッチはどんなものかわかりません。軽い、重いなどなど。調整が行き届いてないこともあります。
特定のピアノにしか慣れていないと、とても演奏しにくく感じます。そのための練習です。
菅)実技試験が行われる部屋の大きさなどに戸惑う受験生って、結構いらっしゃいますよね。
倉藤)はい、私は高校で、受験生には可能な限りいろいろな部屋で歌ってみるよう指導しています。
ピアノと同様、試験場の音の響きは様々です。練習より響く場合は楽に歌えると思いますが、響かないと自分の調子が悪いと力んでしまったり、思うように演奏できない原因になります。
ピアノが置いてなくてもいいので、様々な響きの部屋で声を出してみて、どんな部屋でも安定した歌い方ができるようになっておくことは大切ですね。
菅)健康面について、特に受験生に伝えておきたいのはどんなことでしょうか?
倉藤)多少体調が悪くても勉強することは可能なので、普通高校だと無理して登校してしまう傾向があります。このため風邪が蔓延しやすい環境かと思います。健康面での自己管理が特に大切だと思います。
菅)教室に暖房がつくようになると、喉の乾燥にも注意が必要ですね。寒い季節には、自宅から外に出る際、暖かい家の中でマスクを着用してから外に出ることも心掛けてほしいです。寒い外気を急に吸い込まないように。
そして最後にもう一つ。夏休みに頑張ってかなり伸びてもその後停滞する時期もあるかと思います。
夏休みに試験曲の高音が決まってきたのに11月位になぜか決まらなくなることも。二学期は長いですから。
でもそもそも音楽の上達というのは、行きつ戻りつ、上下の波がありながら伸びていくものです。
夏休みに頑張った方の中には、この時期に焦ることがあるかも知れません。停滞期もあわてず、落ち着いて練習を積んでいくことが大切だと思います。
「頭を開けて発声する」―声楽の教育で昔からよく使われている表現です。「軟口蓋をねらって」などと表現される場合もあります。
口腔(響鳴腔)を広げて発声することの比喩で、高音を綺麗に発声する時にも大切なことです。
ところで「頭を開けて発声する」と言われても、初心者はなかなかそのイメージが掴みにくいかも知れません。
私が初心者に発声を指導する際、時々使うのがこれ、「鼻笛」。
私が師事している先生から以前薦められたものです。
価格は数百円~せいぜい数千円で、ネットでも購入することができます。
この「鼻笛」ですが、鼻に当てて息を鼻から出すことで笛を鳴らすもので、口腔を広げたり狭めたりしながら口腔を共鳴させることで、低音から高音までの音を発する仕組みです。
低音~高音を出し分けるために自然と口腔を操作する方法を身につけるようになります。
ただし人間の身体は一人ひとり異なり、この鼻笛を使った訓練方法が合わない人もいます。そこが人の身体を楽器化する声楽の難しいところで、その人を見ながら場合によっては別の指導法を使ったりしています。
入試が迫ってきたこの時期、音大受験生はどんなことを心掛けたらよいのでしょう?
東京音大講師でDiamond Voice Studioでも指導されている萩原みか先生とまとめてみました。
風邪の季節でもあり、普段以上に健康に注意して過ごして頂くことはもちろんなのですが、案外、以下のようなことを見落としがちです。
■入学試験の願書提出にあたっては、演奏予定の作品番号や題名の書き間違いに注意。
失格につながるので注意が必要です。思い込みではダメ、今一度確かめることが大切です。
■伴奏の先生が使う楽譜はきれいなものを提出するように。
自分用に色々書き込んだ楽譜をコピーして提出するのはマナー違反でしょう。
■地方から出てきてビジネスホテルなどに宿泊する場合は加湿器が必須アイテム。
ホテルで借りられるかどうか事前に確認が必要。なお、まれにホテルの管理が悪くて貸出してくれた加湿器臭う場合があります。ふだん家で使っている加湿器を持ち込むのが一番安心です。
■受験本番までに、出来れば少し広い会場で、かつ人前で1回でも歌ってみること。
受験本番ではふだん練習している部屋よりも広い会場で歌うことになります。初めて広い会場で歌うと、狭い部屋で歌ってきたのと違って、自分の声が自分の耳に集まって聞こえないことから、普段以上に大きい声を出そうとしてどなってしまう失敗事例があります。
■受験本番で履く靴を履いて歌ってみることも必要。
靴が違うとずいぶんと身体感覚が変わります。
■受験本番では、普段練習していないことを急にやらないこと。
受験曲に慣れてくると、それまで切っていた所を切らずに一息で歌ってしまおうとか、欲が出てくることがありますが、それはやってはいけません。
ふだん練習を重ねてきた以外のことは出来ないもの、と心得るべきです。
受験生の皆さんのご健闘をお祈りします。
前々回、「感覚に囚われずに定量的に捉えることの大切さ」をお伝えするために、実物大の紙飛行機の重さを計算して頂きました。
それに続いて前回は「洗濯のしかた」のお話を通じて、「わからないということがどういうことなの か」を体験して頂きました。
さてようやく本題です。
もし紙飛行機の話を挟むこともなく、いきなり「感覚に囚われずに数字で押さえることが大切ですよ」とお話ししたら伝わったでしょうか?
洗濯のしかたの話を挟むこともなく、いきなり「聞き手が持っている様々な記憶と結びつけることが出来てこそ、本当に理解してもらえるのですよ」とお話ししたら、伝わったでしょうか?
聞き手にとって、納得感がまるで違いますよね。
人間は自ら体験(疑似体験も含む)して自ら気づいてこそ、本当に深く納得することが出来るのです。
最近社会人教育でよく「気づき」「腹落ち」という言い方を耳にしますが、まさにこのことを言っています。
教育に携わる者は、一見回り道のようですが、出来る限りこのように生徒自らに体験させる(疑似体験も含む)を通じて気づいてもらい、腹落ちしてもらう労力を大切にしないといけないと思っています。
前々回からの一連のお話は、今後教育者、指導者としても活躍する若い方々を対象として書かせていただきました。
前回、紙飛行機の話を例に挙げて「感覚に囚われずに定量的に捉えることの大切さ」をお話ししましたが、
最後に「このお話には、じつはそれ以上に大切なことが含まれています。」と書かせて頂きました。
ということで「それ以上に大切なこと」のお話をしないといけないのですが、その前にちょっとだけ寄り道をしておきたいと思います。
少々長いですが、以下の文章を読んで何について書かれているものか考えてみてください。
その手順はまったく簡単である。まず、ものをいくつかのグループに分ける。もちろんひとまとめでもよいが、それはやらなければならないものの量による。もし設備がないためどこか別の場所に行かなければならない場合には、それが次の段階となる。そうでない場合は、準備はかなりよく整ったことになる。重要なことはやりすぎないことだ。すなわち一度に多くやりすぎるよりも少なすぎる方がよい。このことの重要性はすぐにはわからないかもしれないが、面倒なことがすぐに起こりやすいのだ。その上、失敗は高価なものにつく。最初は、その全体の手順は複雑に思えるかもしれない。しかし、すぐにそれは生活のほんの一部になるだろう。近い将来この仕事の必要性がなくなるとは予想しにくいが、誰も何とも言えない。その手順がすべて終わったあとで、ものを
再びいくつかのグループに分けて整理する。次にそれらは適当な場所にしまわれる。結局、それらは再び使用され、その全体のサイクルは繰り返されることになる。ともかく、それは生活の一部なのである。
(ブランスフォード・ジョンソン、戸田他訳、1986)
さて、何について書かれているものか分かったでしょうか。
おそらく理解できた方は少ないと思います。(続き⇒ 下のサムネイルをクリック)
飛行機に乗る時いつも感じるのですが、本物の飛行機って金属の塊でいかにも頑丈そうで、これでよく空中に浮き上がるな~とか思いますよね。紙で作った同じサイズの飛行機より軽いワケがないと思いませんか?
本当にそうでしょうか?
では、ボーイング777-300を例に挙げて確認してみましょう。
航空会社のサイトで調べると、この飛行機は全長73.8m、全幅60.9m、全高18.5m、機体重157t。
一方、写真の紙飛行機はコピー用紙で作ったもので、全長14.8cm、全幅12.2cm、全高3.7cm。
ちょうどボーイング777-300の1/500サイズです。
一枚4gのA4コピー用紙を10%カットした紙で作ったので、重量は3.6g。
さて、ここからは皆さんも一緒に検算してみてください。
これを仮に500倍サイズの巨大な紙(縦、横、厚さ500倍)で作ったとすると、その紙飛行機は、
3.6g×500×500×500=450,000,000g=450t
になります。どうでしょう、ボーイング777-300よりはるかに重くなります。
感覚だけに囚われていると、大きく判断を誤る可能性があります。数字で定量的に捉えることって大切ですね。
さて今回、「感覚に囚われずに定量的に捉えることの大切さ」をお話しさせて頂きましたが、このお話には、じつはそれ以上に大切なことが含まれています。
それについては、近々またお話しさせていただきます。
インターネットが広く普及した現代は、誰もが情報発信者になれる時代です。その分野の専門的な知識や経験を持っていてもいなくても、そこは平等に。
それ自体は悪いことではないのですが、結果としてとんでもない間違った情報が面白おかしく拡散されていってしまうことも少なくありません。
このような時代に生きる私たちに求められるのは、玉石混淆の情報の洪水の中から正しい情報、自分にとって本当に有益な情報を嗅ぎ分ける、情報選別能力でしょう。
嗅ぎ分けるための一つの着眼点は「記述に定量的な視点があるかどうか」。
例えばネットでよく見かける「絶対に食べてはいけない食品」。一見科学的に食品のリスクを訴えているようでも、よく読むと定量的に考えられていないものが少なくありません。実際に人体に害を及ぼすためには、あり得ないほどの量を長期摂取することが前提条件になっていることも。
このような「情報の選別能力」は「物事を論理的に組み立てる力」の一種でもあり、学生時代に培っていかなければならない基礎能力の一つにほかなりません。
そのために大切なことはやはり様々なジャンルの読書でしょう。様々な分野のプロの著作物から論理展開のしかたを学ぶことは、大変勉強になります。
音大生といえども、習得すべきは演奏技術だけではありません。
~ 4月から社会人としての一歩を踏み出す門下卒業生の皆さんに向けて ~
東京は桜の季節になりました。桜って、咲いている期間がほんと短いですよね。
もし品種改良に成功して、3か月くらい咲き続ける桜を作れたとしたら、さてその新種の桜、売れるでしょうかね?
演奏とは直接関係ないですが、これが本日のテーマです。
おそらく、多くの方はこう考えてしまうのではないでしょうか?
「桜はわずか1週間くらいの命だから良いのあって、長々と咲いていては、桜らしさ、季節感がなくなってしまう。だから、そんな桜は売れない」と。いかがでしょうか?
じつは、これこそが「既存の価値観に凝り固まった考え方」なのかも知れません。
もしかしたら、市場はそれを受け入れるかもしれないのに、既存の価値観に凝り固まって、自ら可能性を閉ざしてしまう、ということ。
先ほどの問いに関しては、「売れる可能性がある」のほうが良い回答でしょう。
でも、さらに良い回答があります。それは例えば、
「売れるか売れないかを考えている時間があったら、直ぐに街に出て、歩いているひと100人に意見を聞いてみて、その結果で判断する」
です。
「迅速にデータを取って、それに基づいて判断しながらビジネスを進める」、この考え方は、これからの社会でますます大切になってきます。
これが4月から社会人としての一歩を踏み出す門下卒業生の皆さんに今日、お伝えしたかったことで
すが、同時に指導にあたる教員側も心に留めておくべきことだと思っています。
~ 声楽を学ばれている学部生、大学院生の皆さんへ ~
これは、ある商品カタログに載っていた写真です。
女性のインストラクタさんが男性に何かサジェスチョンをしているシーンなのでしょうか、でもなんだかすごく不自然なポーズですね。
では何が悪くてこんな不自然なポーズになってしまうのでしょう?
自然なポーズをとるためにはどうすれば良かったのでしょうか?
・・・これが今回のテーマです。
このモデルさんのポーズが不自然なのは、初めからこのポーズで静止して写真を撮っているだけで、<このポーズに至るまでの感情作り>が出来ていないからでしょう。
前段となる動作、たとえば実際に男性に話しかけながらこのポーズに繋げていけば、もっと活き活きとした姿になるはずです。
じつは、歌の場合も同じことが言えます。
歌いながら歌詞を思い浮かべて感情表現することは基本ですが、一歩進めて、歌詞の内容を思い浮か
べてからブレスをして歌い出すことで、聴き手によりしっかり伝わる演奏となるものです。
譜読みが速くなると、どんな良いことがあるのでしょうか。
・学生時代においては;
人より速く譜が読めると、人より早く音楽を掘り下げることができます。1曲1曲の消化スピードが速いことで、新しい曲にどんどん挑戦できるのです。これは長い間に大きな差になります。
・プロの演奏家になってからは;
演奏経験の浅いうちは、演奏会の仕事の一つ一つが、自分にとって初めての演奏であることが多いので、当然、譜読みの速さが必要となります。
ある程度演奏経験を重ねてからも、新作の初演ともなると当然のこと音源なんてありませんので、やはり譜読みの速さがモノをいいます。
では、譜読みというのは鍛練によって速くなるものなのでしょうか?
じつは、鍛練を続けていくことで速くなります。
最初は音源を聴きながらの耳コピーでも良いのですが、とにかく必ず自分でピアノの鍵盤をたたいて明確な音にしながら覚えていくことです。
その際に注意したいのは、特定の歌手の音源だけを聴くと、知らず知らず、その歌手の歌いグセまでを真似てしまうので、そうならないよう必ず何人かの音源を聴くこと、そして音源の中には、例えばフランス語の曲ならフランス語を母国語とする歌手を必ず入れることが大切です。
身体を楽器化する声楽では誰にも、実力がすごく伸びる時期と、努力をしていてもなかなか伸びない時期があるものです。
伸びる時期というのは、身体、声帯の成熟度合いにも依存するもので、それがいつなのかというと、人によってじつに様々です。
でも、なかなか伸びない時期も、大きく躍進するためのステップとなる大切な時期なのです。
ですから、とにかくいつもコンスタントに努力を続けて欲しいと思います。
そうしたら皆さんそれぞれ、大きく花開いていくことと思います。
そして、コンスタントに続けていくために何よりも大切なのが、心身と喉の健康です。健康に気をつけて頑張っていきましょう。
~ 今後、コンクールに挑戦される皆さんへ ~
今年も様々なコンクールのエントリーが始まります。
コンクールで大切なのに意外と忘れがちなのが、演奏時間(規定時間)の考え方。規定時間を超えると、それまでどんなに素晴らしい演奏をしていても、演奏終了の合図が鳴り響きます。
例えば「アリア2曲、演奏時間10分以内」というコンクール規定だったとします。演奏したい曲が、ちょっと歌ってみたところ前奏も含めて1曲目3分、2曲目 6分50秒、計9分50秒でした。さて、大丈夫でしょうか?
この選曲、じつはまずアウトです。なぜでしょう?
まず、曲間の時間の考慮が抜けています。曲間も演奏時間のうち。ふつう10秒位はかかります。
また開始時間も、コンクールによっては最初の前奏の音出しからだったりしますが、別のコンクールではステージに1歩足を踏み入れた時点から計られる場合があります。そうなると歩いてきて礼をする時間まで必要です。
そして一番見落としがちなのが、「ちょっと歌ってみて9分50秒だった」という点。貴方がコンクールに向けてこの2曲の練習を重ねて行くと、おそらく9分50秒では終わらなくなります。上達するにつれて、より難易度の高いカデンツァなどを入れたくなったり、高音が長く伸ばせるようになっていって、結果として長くなってしまうことが多いのです。
これらの要素をしっかり考慮して選曲する必要があるのです。
そして、コンクールの1週間くらい前に、本番で伴奏をお願いするピアニストにお願いして、最終的な時間をもう一度計ってみることです。
ここではあくまでも一般的な注意事項を書いてみました。詳細は個々のコンクールの事務局に確認する必要があります。
~ 今後、演奏会を経験される皆さんへ ~
演奏会のステージやコンクールなど審査の場では、女性は前髪を上げて額(おでこ)を出したヘアスタイルが基本的にはお薦めです。なぜなら客席から表情がはっきりと見えるから。
前髪を下ろすと眼で表情を作っても見えづらいですし、ステージ天井の照明で顔に髪の毛の影が出来てしまう場合すらあります。
写真は悪い例です、これではいけませんよね↓
ところで、なかには「自分は前髪を上げたヘアスタイルが似合わない」と思っている方もいらっしゃるかも知れません。
ひと言で「前髪を上げる」といっても、色々とやり方があるのです。詳しくは声楽実技レッスンの際などにお話しできれば、と思います。
~ 今後、演奏会を経験される皆さんへ ~
ロングドレスでステージ(舞台)に上がる際の注意として、
・正しい姿勢で歩きましょう
・ドレスの裾を自分の足で踏まないよう、裾の前側を指で摘まんで少し持ち上げて歩きましょう
ということはよく言われていますね。
じつは、もう一つ気をつけたいことがあります。それは・・・
演奏会ではソリストは普通、舞台下手(しもて:観客席から舞台に向かって左側)から舞台入りしますね。その際、「ドレスの裾は左手で持ち上げて歩くようにする」ということです。
なぜ右手ではなく左手なのでしょうか?
舞台下手から歩いてくる時、右手は観客席側です。ですから右手でドレスの裾を持ち上げると、観客席からパニエ(※)が見えてしまうことがあるのです。
上手(かみて)から舞台入りする時は、逆に右手でドレスの裾を持ち上げるようにします。
ちょっとしたことですが、貴方のエレガントなロングドレス姿を台無しにしてしまわないために、とても大切なことなのです。
※パニエ:スカートを美しい形に膨らませるため、その下に着用するアンダースカート
~ 今後、舞台演技を学ぶ皆さんへ ~
毎年、学生のオペラ実習で必ず指導していることに「大きく、全身で演技することの大切さ」があります。そのことについて少し書いてみたいと思います。
テレビドラマや映画における演技の場合は、絶妙なカメラワークで俳優の表情をアップで捉え、視聴者や観客に見せてくれます。
しかしオペラや演劇の舞台の場合はどうでしょうか。オペラや演劇が行われるホールは、数百から場合によっては2千以上の客席があります。
観客は遠く離れた席から、カメラの眼を通さず直(じか)に舞台を眺めているのです。貴方がいくら一生懸命に表情を作っても、それだけでは観客に伝わりません。
そういう舞台で、観客にしっかり伝わる演技をするためには、どうしたら良いのでしょう?
じつは人の目には<動いているものを追いかける>という習性があります。大きく動くことで観客の視線を引きつけながら、全身を使って演技をすることが大切なのです。
例えば、深い悲しみを表現したい場合、ただ表情を暗くしてうつむくだけではダメです。この場合、「息を1回吸ってから、深く吐く」という一連の動作をすることで、
観客に感情を伝えることができます。
常に「観客からどう見えているか」、観客目線で演技を考えていかないといけません。
これは基本的な考え方の1例です。これ以上のことはなかなか文章で表現することが難しいです。「舞台基礎演技法」や「オペラ実習」の授業の中で一緒に勉強してまいりましょう。